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2010年02月02日公開
![中尾 一彦 [出雲市教育長]](/column/journal01/article/img/20100202_nakao.jpg)
中尾 一彦 [出雲市教育長]
〔なかお かずひこ〕
1952年、島根県生まれ。島根大学文理学部理学科卒業。74年、出雲市事務吏員に任命。以後、福祉環境部総合福祉カードセンター課長、教育委員会生涯学習課長、総務部次長、文化企画部次長を経て、2003年から出雲市外6市町広域事務組合事務局長、産業振興部長、産業観光部長を歴任。09年5月から現職。
さまざまな業務経験をプラスに
4月に新市長が誕生し、5月に中尾教育長がその任に就かれたわけですが、まず抱負をお聞かせください。
私はいわゆる「先生」と呼ばれる立場にはおりませんでした。市の事務職員として35年間、いろいろな業務を経験してきましたが、それはプラスになるかなと思っています。35年間のうち約半分は労働組合をやっていたのですが、私自身にとってはそれが血となり肉となり、あるいは背骨がピンとしたと言いますか、その経験が一番ありがたかったですね。組織運営であるとか、難しい局面がたくさんありましたので、仕事とは別の形でも幅の広い経験が若いころにできました。それが以後の業務にも大変役立っています。
地域学校運営理事会や事務支援など、出雲市では先進的な取り組みが行われています。当面はこれを引き継ぎ、徐々にご自身のカラーを出していかれることになると思いますが、新教育長としてはまずこうした施策をどう評価されていますか。
きわめてチャレンジングな取り組みで、考え方としては課題を的確にとらえた形になっていると思います。教育委員会に来て一番感じたのは、これまで私が経験してきた部署に比べて教育行政は柔軟性がないと言いますか、フレームがかちっとしていて、手を加えづらいなということでした。市長からは「最初から飛ばすなよ」と言われています。半年が経過(インタビューは10月半ば)しまして、ようすがわかりかけてきましたので、そろそろ来年度に向けての準備をしていこうという思いでいるところです。
学校事務支援センター(詳しくは『教育ジャーナル』2010年1月号を参照)で言えば、現状では事務職員からセンターへ、教員から事務職員へという2段階の移行で事務の改善を進めています。これを、教員が「事務負担が軽減された」と実感できるよう、教員からセンターにストレートに持ってくることができる業務はないかと、検討してもらっています。
新しい仕組みの中では、学校文化の中で育ってこられてはいない方の視点が、かえって生きるのかもしれません。
学校文化、行政文化ということではなく、こういう過渡期と言いますか、システムに手を加えるときはいろんな意味で軋轢(あつれき)が生じますから、そのあたりも解決しながらやっていかないといけません。最近はできるだけ早い成果を求められますが、100年以上も培ってきたそれぞれの文化があるわけですから、たとえば事務支援センターにしても、成果が明らかに目に見えるまでには、ある程度の時間はどうしても必要だと思います。
地域、家庭の教育力をつなげて
新しいやり方にもかかわらず、出雲市の全部の学校がコミュニティ・スクールを導入したことには驚きました。
もともとは学校と地域とは密接な関係にあったわけですから、これは機能していくものと思っています。
かつての学校は権威を持っていました。学校の言うことは正しいことだ、先生の言うことは正しいことだと。学校で学んだことを子どもたちが家庭で「今日、学校でこんなふうに言われたよ」と報告して、それが社会道徳や社会規範につながってきた経緯があります。でも、ここ20年ぐらいですかね、学校と地域とのかかわりが希薄になり、そればかりか、学校と家庭、地域と家庭の関係も希薄になってしまいました。それがここへきて、学校だけでは解決できないような問題が起きてきて、かつてあった学校と地域の関係に目を向けていこうということで、地域学校運営理事会制度ができました。
おかげで学校のほうに、外部の人たちがかかわることへの抵抗感がだいぶ緩和されてきましたね。
よく「学校だけで抱え込んで悩む」と言われますが、さらけ出してしまえばいいんですよ。まあ、誰かに頼るというのは、教員の沽券(こけん)にかかわるということがあったのかもしれませんね。
学校が過度な期待や要求をされる風潮になってしまって、本当は家庭ですべきこと、あるいは地域がすべきことまで学校に任されたのでは、学校はパンクしてしまいます。そこのところを元のあるべき形に戻すと言うか、そういったところでコミュニティ・スクールが機能していくのでしょう。
地域が持っている教育力や家庭の教育力がうまくつながって、広い意味での教育という形になると思うんですよ。社会はそれぞれ分担しながら動いていくものです。こうした組織をつくることによって、皆さんが「そう言えば、昔はこれは自分たちがやっていたんだ」と思い出して、学校は子どもにしっかり学力をつけてもらう、その環境をつくっていくのが自分たちの役割だったなと気づいてもらえるようになると思います。
実際、運営理事会も、手探りの状態ではありますが、たとえば、ある PTA では小学校と中学校とが合同で PTA の総会をやってみようとか、いろいろな試みが出ています。そういったもの一つひとつの積み重ねが、かつてのような社会全体の教育力の回復につながっていくことを期待しています。教育の世界ですから、短期間ですぐに結果が出るということにはならないのでしょうが、着実な形で進めていきたいと思っています。
学校の先生方は「子どもたちのために」と言います。アプローチの仕方が違うだけで、それは地域の人たちも、教育行政にかかわる方たちも同様だと思います。こうして力を合わせていける仕組みができているのですから、出雲から素敵な子どもたちが育っていきそうだと思います。
運営理事会にしても、事務支援センターにしても、スクールマネジャーにしても、これまで長い間、学校教育の中で維持されてきた既存の仕組みに、いわば一石を投じる制度ですから、当然、簡単なことではありません。しかし、思いが一つになれば、じゃあ、一緒にやっていこうじゃないかということになると思いますね。
学校だけで受け止めるのは厳しい課題が出てきて、学校から「何とかしてほしい」という声が聞こえてきたタイミングでの提案でしたから、時期としてもよかったのかもしれませんね。
自分の長所を自覚できる子に
教育の仕組みのお話をうかがってきましたが、学校教育そのものではどんなことに重点を置いておられますか。
まず、「心の教育の充実」と「確かな学力の向上」は、学校教育に課せられた責務ではないでしょうか。そしてこれらの教育は、地域との連携や子どもの発達段階に則した一貫した教育を視野に入れて取り組むべきと考えています。
具体的には、「心の教育」については、教育活動全体を通して行う道徳教育はもとより、地域の支援を得て行っている体験活動なども、人とのふれあいを重視する観点から進めていきたいと考えています。また、「確かな学力」の定着を図るためには、まず、各学校で具体的な学力向上策を立案することが必要です。教育委員会としては、各学校の学力向上施策を支援する取り組みや、出雲科学館での理科学習(全小中学校を対象に、ある単元の授業を出雲科学館が実施。学校ではできない大がかりな実験を子どもたちに体験させ、理科への興味・関心を持たせている)の充実を図っていきたいと考えています。これらを通して、子どもたちが「学ぶ楽しさ」や「わかる喜び」を実感してもらえるようにしていきたいですね。
なお、発達段階に則した一貫教育については、平成20年度から全小中学校で「小中一貫教育」を実施しており、また、現在、保幼小一貫教育や中高連携にも取り組んでいます。具体的には、子どもたちや教職員の交流活動、小中一貫カリキュラムに基づく教育などを行っているところです。問題行動発生件数や不登校児童生徒数の減少など、当初期待していた教育効果が徐々に現れつつありますので、今後も充実を図っていきます。
特別支援教育についても、もっともっと充実させていかなければならないと、方向性を考えているところです。保護者の間にも特別支援教育への理解ができてきているのはいいことだと思います。幼児期からの早い対応ができるよう、幼稚園教育の中で教員がこの観点を持って、小学校につなげていくという取り組みを行っています。
出雲市では、まさに市民ぐるみで子どもたちを育てておられます。教育長ご自身は、出雲の子どもたちにはどんな大人になってほしいと願っておられますか。
「ふるさと出雲」を語ることができる大人になってほしいと願っています。地域の歴史や文化などに限らず、地域の人や家族などの身近な人の素晴らしさ、人と出会うことの素晴らしさなども語ることができるようになってほしい。これが、自分の周りには自分を支えてくれるたくさんの人がいることを知ることにもつながるのではないでしょうか。 また、このことは「これからの時代をたくましく生き抜く力」の基盤づくりにつながっていくと思っています。
そして、子どもたち一人ひとりが自分自身の長所を、必ず一つは自覚できる人間になってほしい。自分に自信を持つことは、たくましく生き抜く力につながります。お互いに攻撃し合うことを見聞きすることの多い時代ですが、一つくらい、自分の自慢できることを自覚していてもいいのではないかと思います。
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