教育コラム

教育長に聞く

第5回米子市教育長に聞く

人権教育に根ざした豊かな心をはぐくむ

2009年03月10日公開

足立 操   [ 米子市教育長 ]

足立 操 [米子市教育長]

〔あだち みさお〕

1945年、米子市生まれ。鳥取大学教育学部卒業。青谷町、日南町、境港市、米子市の中学校教諭を経て米子市教育委員会に。同和教育課長を務めた後、市の中学校長を経て、2005年5月より現職。

  • *趣味/海釣り、スキー
  • *座右の銘/感謝

「ありがとう」と「ごめんなさい」

あいさつ運動の推進はどのような背景を持つのでしょうか。

かつて、子どもを取り巻くトラブルがいまほど多いときもなかったでしょう。社会情勢からも、子どもたちは命の尊さの認識が持てなかったり、自尊感情が保てなかったりしています。コミュニケーション能力が欠けているためにうまく人間関係がつくれないという背景もあるでしょう。そうした状況を受けて、本市の教育の柱として、まず、心の教育に重点を置いています。

そのために最初に取り上げるのは、あいさつのできる子どもの育成ということです。特に「ありがとう」と「ごめんなさい」を大切にしています。何かしてもらったら「ありがとう」、迷惑をかけたら「ごめんなさい」とすぐに出てくるようにしたい。
人とのコミュニケーションがうまく取れない子どもたちでも、これができるだけで全然違ってきます。人間関係がスムーズになります。
先生たちは校門に立って「おはよう」と声をかけ合うことをやっていますが、本当はそれだけでは十分ではなく、それから先へ進まなくてはいけません。それが「ありがとう」「ごめんなさい」なのです。

幼稚園児から高校生までが一緒に

米子市独特の縦割り教育とは、どのようなものでしょうか。

さらに取り組んでいるのが、人権教育です。現在では10の中学校校区で、毎年、幼稚園・保育園(いずれも私立)から小中高までが連携して、人権についてのグループ発表を行っています。なかなかユニークなプログラムで、発表はすべて公開され、PTAや教師、地域の人々が一堂に顔をそろえます。

このように幼稚園から高校までが縦割りでかかわり合うというのは、授業でも行われているのです。たとえば、幼稚園と中学校の組み合わせというのもあります。中学生がマラソン大会をするときに、幼稚園の子どもたちが応援にかけつけます。沿道で旗を振ったり、声援を送ったりするわけです。中学校の文化祭に出かけて行くこともあります。逆に、中学生が幼稚園の活動に出向いて交流学習会を行うこともあります。髪を染めてちょっと乱暴だったりする男の子が、小さな子を相手に、しゃがんで応対をしたりするのはなかなかほほ笑ましいものです。

こうした交流を通して、小さな子どもにとっては、おにいちゃん・おねえちゃんができるわけです。中学生にとっては、自分たちの小さいころを思い出したり、両親が自分たちをどう育ててくれたかなどを思いやったりするきっかけにもなります。また、命の教育につなげることもできます。
人権教育のもとになるのは自尊感情を育てることなのです。自分のことをおにいちゃんと呼んでくれる人がいるだけで、自尊感情につながるのですね。

「まなびの教室」で特別支援教育を充実

学校経営の中心に特別支援教育を位置づけているということですが、具体的にはどのような状況なのでしょうか。

特別支援教育も豊かな心をはぐくむ学校教育の目指すものの一つなのです。支援の必要な子どもたちへの環境整備として、いくつかの取り組みを行っています。
たとえば、いくつかの小学校に「まなびの教室」という通級指導教室を設けています。この教室では、子どもたちが心の安定を図れる場所となっています。同時に、保護者がいろいろな問題を相談できるシステムとして、保護者から大変頼りにされています。

現在は小学校だけですが、中学校にも「まなびの教室」を来年度から開設する予定です。
また、特別支援を必要としている子どもたちの情報について「個別の指導計画」を作成し、幼稚園から中学校まで情報を共有して、対応できるようなシステムを組んでいます。そのために大切なことは、記録をしっかり取っていくことです。指導主事があちこちを回ってその状況を把握しています。

幼稚園・保育園と小学校の連携では、「就学支援シート」が役に立っているようです。これは、保護者が子どものようすを見て、困っていることなどを記入していくものなのですが、こちらが思った以上にその作成が見られます。

米子市の場合、幸いなのは鳥取大学医学部や島根大学の学生や院生が、実習で学校や適応指導教室に入ることができる点です。特別支援には人手が必要だし、学生たちは実習場が必要なので、互いにメリットがあるわけです。しかも、費用がほとんどかからないのもよい点でしょう。
やはり、あまり費用をかけずに知恵を使う必要があるというのが正直なところですね。

読書好きの子どもが増えている

図書館教育にも力を入れているということですが、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

まず、学校図書館の環境製備としては、平成9年度より学校図書職員を学校へ配置し、現在は全校配置となっています。
また、平成14年度からは司書教諭を発令して、週5時間の図書館の専任業務を位置づけています。また、平成13年度からは市内の小中学校34校の蔵書約20万冊の情報をデータベース化し、市立図書館や児童文化センターとのネットワーク化を通して、相互に蔵書検索が可能になりました。これによって、一校の蔵書が少ないとしても、市の全蔵書が借りられるので、大幅に蔵書が増えたこととなりました。
検索して配本希望を出すと、市所有のメール便の活用によって市立図書館経由で他校の図書が2日後には届けられるという便利なシステムが出来上がっています。ここでも市のメール便を使うことで、コストを大幅に抑えることができました。
ここで国の5か年計画が策定されたので、平成20年度の図書購入費が前年度比で20%増額を目標にして予算を組んでもらおうと思います。

「朝読書」に取り組んでいる学校は全国的に多いでしょうが、米子市でも目下全校で実施しています。1年間の平均貸し出し冊数が小学生で57冊、中学生で14冊という数字が出ています。この数字からも、読書好きの子どもが増加していることがおわかりでしょう。全国学力・学習状況調査では、「読書が好きである」と「1日10分以上の読書をしている」子どもの割合が全国平均を10ポイントから6ポイント上回りました。
今後の課題としては、読書量から読書の質を高める取り組みを行っていきたいと思います。さらに「読む力」から、自分の思いや考えを「表現する力」へ重点を置いていけたらと考えています。

基礎・基本は徹底的にやらせたい

教育への思いをお聞かせください。

ゆとり教育との関連はともかく、基礎・基本はやはり大切ですからおろそかにはできないでしょう。学校というのは、昔は理解できていない子どもを放課後でも残して教えたものです。現在はそれはしないでしょう。教師も忙しいですからね。しかし、とりわけ計算や書き取りなどは徹底的にやる必要があります。

自分の例で恐縮ですが、小学校2年生のときに引き算で手こずり困った覚えがあります。「15-8」のような形がわからなかったのです。そのときの担任から、夏休みに学校へ通うように言われ、ひたすら引き算をやったものです。それで、やっと理解できるようになりました。やはり、徹底的にやるというのは大切なことです。

米子市の状況を見ると、家庭学習をほとんどしていないのです。やはり、習慣づけていく必要があるでしょう。丁寧な指導をすれば成績は上がっていくものです。理解できていない子どもを教えて、どうにか理解できるようにすることが教師の仕事と言ってもよいでしょう。子どもに目が行き届く教師が必要なのは言うまでもありません。
母親というのは火の中に子どもがいれば飛び込んで行きます。教師はどうでしょう。子どものために犠牲になれというのではなくて、これは気概の問題です。真剣に子どものことを考える教師というのは、やはりいてほしいです。常に子どもに軸足を置いて、いざと言うときにきちんと対処できる、そうした教師が理想でしょう。やはり、独自の考えに基づいて、教師を雇って研修していけたらどんなによいだろうかと考えます。

最後に、恩師の思い出をお聞かせください。

私は子どものころはちょっと手がつけられないと言われていました。小学生のときの教師には、歌を歌うように言われました。実際に歌ってみれば気持ちがすっきりしますし、歌のよさも知ることができました。また、日記をつけるように言われたこともあります。おかげで自分を見つめなおすことができました。

中学校のときには、とうとう私の担任になる教師がいなくなりました。私は柔道部だったのですが、柔道部の顧問が、しようがないからというので担任になってくれたのです。自分のよさを認めてくれた先生でした。悪いことをしても何も言われないと、許されていると思っていたのですね。そして、限界の時点で雷が落ちる。それで初めて自覚するということの繰り返しでした。おかげで、その後、教師となり、現在に至りました。いまでもその先生とは交流が続いています。

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