教育コラム

教育長に聞く

第8回高知県教育長に聞く

子どもの“全体最適”に向けた仕組みづくりを

2009年06月09日公開

中澤卓史 [高知県教育長]

中澤 卓史 [高知県教育長]

〔なかざわたくじ〕

1950年、高知県生まれ。上智大学法学部法律学科卒業。74年に高知県入庁後、商工労働部商工政策課長、総務部副部長、大阪事務所長、総務部長などを歴任し、2008年4月より現職。

  • *趣味/ゴルフ
  • *座右の銘/「心に正義と良心を」

子どもたちの心に寄りそって

全国学力調査が導入されて、高知県ではどのような取り組みが行われていますか。

平成19年度の調査では、小学校についてはほぼ全国平均並みの結果でしたが、中学校では全国平均を大きく下回る結果となりました。
学力が低いのは勉強をしていないか、あるいはしていてもやり方が悪いかのどちらかでしょう。本県の25%の中学生は授業以外で一日当たりの学習時間が30分より少なく、まったく勉強しない生徒も10%以上います。宿題をしている割合も全国平均と比べると少なく、家庭学習が十分に定着していないことがわかりました。

また、到達度把握検査の結果によると、中学校入学当初は全国平均にほぼ近い学力があるものの、中学1年生の3学期では全国平均から大きく低下しているという現状があります。これはまさに中1ギャップの問題です。
こうした状況を踏まえた対策として、学校における取り組みとしては、児童生徒の基礎学力の定着と学力の向上、教職員の指導力の向上があげられます。

具体的にはどのようなものですか。

「学ぶ力を育み 心に寄りそう 緊急プラン」というものを策定しました。深刻な中学校の学力問題をはじめ、いじめや不登校など、本県の抱える教育課題の解決を図るために、まずこれまでの取り組みの検証と、今後の方向性の検討を十分に行ったうえで、緊急に取り組むべき具体的な内容をまとめたものです。

平成20年度から23年度の4年間を計画期間として定め、大きな目標を2つ掲げています。1つは「基礎学力の全国最下位レベルからの脱却」に向けて、子どもたちがこれからの社会を生き抜いていくための学力をしっかりと身につけることです。差し当たっては学力を全国水準にまで引き上げるということです。

もう1つは「児童生徒が落ち着いて安心して学べる環境づくり」に向けて、いじめや不登校などで悩んでいる子どもたちの心に寄りそうというもので、差し当たっては生徒指導上の諸問題の発生率を全国水準にまで改善するというものです。
さらに、学校・学級改革、教員指導力改革、幼児教育改革、心の教育改革、放課後改革の5つを掲げて推進体制を敷き、進行管理にあたっています。

いずれも各学校がそれぞれの状況に応じて手を打っていく必要があり、それが基本になります。本県の特色としては、教員一人ひとりが気づきによって工夫をして、それを全体に広げていくという形が向いているようですので、うまくそれをPDCA(プラン→ドゥ→チェック→アクション)に乗せていくことが必要になります。

就学前から手をかけ幼保小連携を

幼児教育の改革ではどのような方向性が検討されているのでしょうか。

中1ギャップのことに触れましたが、中学・高校など思春期の問題の根底には、就学前の教育が深くかかわっています。小中高と年齢が上がるにつれて問題が多くなり予算も必要となるのでしたら、しっかり予算も取って、就学前の時期に手をかけていくほうがよいのではないかという発想です。

本来、乳幼児期は人格形成の基礎を培ううえで非常に重要な時期なのですが、幼児教育の重要性に対しては理解が十分に進んでいません。ですから、主体性や基本的な生活習慣、また、人とかかわる力など、就学前に育てたいことについても共有化が十分に図られていません。

今後に向けて、幼稚園と保育所の交流・連携はもちろん、併せて幼・保・小の連携を進めて、幼児教育と小学校教育が円滑に接続するようにしたいと考えています。
また、待機児童の解消や延長保育など、仕事と子育ての両立を支援するために、地域のニーズに応じた保育サービスの実施を市町村や設置者によりいっそう働きかけていくことも必要だと思います。

実際、子どもの状況というのが大人の状況を反映しているとしたら、本県の子どもたちの置かれている環境はあまりよくないのかもしれませんが、たとえば、本県の離婚率が高いのも、よく言えば既存の規則に縛られすぎないという点もあります。また、自由に発想し、よい意味で型破りなところもあるので、よい方向が伸びればよいでしょう。
しかし、子どもたちの自尊感情がうまく育っていないところもあるので、それは大人がしっかり手をかけなければいけないことだと思います。

全小学校に放課後子どもプランを

放課後子どもプランがつくられた目的と活動内容はどのようなものですか。

共働きの家庭が多いなど本県の特徴を踏まえて、子どもたちが放課後を有意義に過ごせるように設置したものです。現在、すべての小学校に置かれることを目指しています。子どもたちの単なる居場所づくりでなく、勉強もしていけるような環境づくりの視点で行っています。すべての子どもたちに健やかで豊かな放課後を保障しようという姿勢です。放課後や週末における生活や学習の習慣を身につけるために、県内のすべての小学校で放課後子どもプランを実施できるように市町村を支援しています。

具体的には、おもに児童生徒の意欲を高めるためにスポーツや文化活動など多様な体験活動を通した学びの場を提供しています。また、学習指導の定着のために宿題などの学習支援を行える指導員を配置し、落ち着いて学習に取り組める環境を確保しています。

併せて、家庭での学習環境づくりについても支援をしていく必要があると考えています。自ら学ぶ力を育てる家庭学習の共通理解と推進が必要です。家庭学習が「なぜ必要なのか」「何をどこまでやればよいのか」といった共通理解を、学校だよりや家庭学習の手引きなどを通して深めるとともに、調べごと、ものづくり、体験活動など、親子で学習習慣を築いていく取り組みを進めていこうと考えています。

また、地域の教育力という点でも、本県にはそのことが大事だという思いを持つ人が多く、そうした人々のパワーを上手に引き出していくことが求められます。そのための体制づくりがぜひとも必要ですね。

心の教育を充実させるための方策

心の教育問題についての改革も進んでいるようですね。

子どもたちが仲間とともに学び合い、いじめや不登校を生じさせない学校づくりが重要であると考えています。厳しい状態に置かれている子どもたちの実態をしっかりと把握し、全教職員が子どもたちの心に寄りそい、カウンセリングマインドを持って一人ひとりの成長を支援していくことが必要です。

特に、知・徳・体の徳の部分に手を打っていくことが求められます。自制心や生命の尊重など道徳教育を充実することにより、学校教育活動全体を通した心の教育の充実を図ることができるでしょう。また、児童生徒のコミュニケーション能力を高め、課題解決を図る力が身につくような児童生徒の人間関係づくりにかかわるプログラムを作成していこうと考えています。

具体的な方策はどのようなものですか。

人権教育の基盤に立ち、不登校やいじめを生じさせない学校をつくるため、人間関係づくりや社会性、コミュニケーション能力の育成など、人と人をつなぐ力をはぐくむための実践活動を行います。また、長期欠席、問題行動、児童虐待に関して、予防的な視点に立った取り組みを行い、教職員の意識改革を促すとともに、実態に基づいた支援を行っていきます。

さらに、全教職員がカウンセリングマインドを持って児童生徒に寄りそい、学校でも組織的な対応をさらに高めるため、教職員向けの児童虐待やいじめ防止のマニュアルを作成しましたので、県内の全ての学校に徹底します。いじめ・不登校・児童虐待に関する体系的な研修を行うとともに校内研修の促進を図り、全教職員の実践力を高めていこうと思います。

心に正義と良心を持って……

今後の抱負についてお聞かせください。

就任2年目を迎え、やるべきことが山積していますが、組織マネジメントの視点を大切にしていきたいと思います。

やはり、学校というのは、教育に磨きをかける場であるということは基本中の基本であると思います。教師は日々、職場の中で鍛えられて、教育をいいものにしていかなければなりません。本県では、着任2年目の教師を企業へ半年間研修に出していますが、これで社会性が欠けていると言われている面を多少は補えるかと思います。

何より、学校の中で教師が育っていくような組織が必要であり、それは同時に児童生徒に還元されていく取り組みでなければなりません。心地よい理念でなく、現実を把握し踏まえた取り組みです。

そこから子どもの“部分最適”でなく、“全体最適”に向けて、子どもを誘導していくような仕組みをつくっていく必要があります。そこへ着目した教職員の気づきが第一に大切になります。
大小さまざまな課題に対する決断の日々ですが、「心に正義と良心を持って生き抜かねばならない」という高校時代の恩師の言葉が、常に思い出されるこのごろです。

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