幼児から大人まで、「見える学力」から「見えない学力」までをサポートします。


2009年10月06日公開
![大江 嘉幸 [和歌山市教育長]](/column/journal01/article/img/200910_ooe.jpg)
大江 嘉幸 [和歌山市教育長]
〔おおえよしゆき〕
1945年、和歌山県生まれ。和歌山大学教育学部卒業。同大学同学部附属中学校で社会科教諭として19年間勤務。県立高校2校では剣道部や野球部を指導。97年より県教委事務局に入り学校教育課高校教育班班長、教職員課課長などを歴任。2003年より県立桐蔭高等学校長、06年3月に定年退職。和歌山大学非常勤講師(世界史概論)を務め、07年8月より現職。
「教育パワーアップ」で豊かな力を
和歌山市では「教育パワーアップ」を掲げているそうですが、そのねらいはどういうことでしょうか。
目下のところ、教育の分野における課題は、学力の向上をはじめ、いじめ・不登校問題への対応、子どもの安全確保、道徳教育の充実、生活習慣の確立や体力の向上など山積しています。このようなときこそ、学校・保護者・地域が連携を密にして、一人ひとりの子どもの成長を見据えた、きめ細かな教育活動を大切にしていかなければならないでしょう。
本市では、21世紀を創造する人間性豊かな総合力を持った人づくりを進めるため、「子どもが輝き、文化が薫る教育のまち」の実現に向け、教育環境の整備を進めています。そうした観点で「教育パワーアップ」を推進しております。
具体的には、どういう取り組みなのでしょうか。
子どもたちには人間性豊かな、知・徳・体の総合力を備えた人になってほしいものです。そうした力を学年に応じて向上させていくためには、教師一人ひとりが力をつけなければなりません。そのために当市では昨年度から、客員指導主事制度を導入しました。
今年度は15人を任命しました。医科大学の先生や医大生、退職された校長先生や、国語力向上の点ではアナウンサーにも加わってもらっています。これは、学識者、教員経験の豊富な方々だけでなく、その分野で活躍されている方々にボランティアで学校に入ってもらうのです。初任者研修や授業への助言などを行い、外部からの視点で提言し、学校を訪問してもらいます。また、実際に授業をしてもらうこともあります。
今年は本市での教師の新規採用者が88人にものぼり、いわば新陳代謝の時期だと思います。教師のためにはこの客員指導主事のシステムが大いに役立つだろうと考えます。
また、地域で子どもを育てるという意識を強めるのも、「教育パワーアップ」の一環です。現在、50余の小学校地域(校区)で登下校時に「子ども見守り隊」という活動が行われていますが、昔に比べて、大人と子どもが何かを教え合うという機会が減っているのではないでしょうか。大人とかかわる場が増え、コミュニケーションのよいお手本にふれれば、表現する力を高めることにもつながります。また、大人も子どもから、新鮮な感動をもらう場面もあるようです。
一方で、大人にしっかり見守られている、大切に思われ精神的に包まれているという意識が、いまのところは子どものほうに少し希薄かもしれません。今後は、子どもが大人に自然に感謝できるような状況を生むためにも、大人が単なる声かけから、心をこめた言葉かけに、とお願いしております。
教師にはどのようなことが望まれるのでしょうか。
言葉かけはもちろん教師にも必要なことです。優秀な教師でもそれが難しい人がいるのは気になるところです。これから望みたいのは、情報などを共有して、一人で抱え込まないという姿勢です。
抱え込まないためには、どうしたらよいのでしょうか。
管理職も教師に対して丁寧な言葉かけをしていくことが必要です。情報を共有して、失敗すら語れるような態度を保ちたいものです。管理職がそうした姿勢を取ることができれば、今度は教師が子どもたちのことをよく知り、その反応を楽しむようなコミュニケーションを取れるようになるのです。教師が異業種の人々とかかわりあったり、知的な探究心や趣味を広く持ったりすることも必要になります。
ICTで学習への興味・関心を高める
特色ある取り組みとして、ICTを導入されたそうですね。
学校への新規の機器導入は尻込みされることが多いのですが、時期的に市長の強い後押しもあり、決断しました。
2007年4月からマイクロソフト社とともに、タブレットPCを活用した児童の基礎学力向上に関する共同研究(Wプロジェクト…Wは和歌山の頭文字)を開始しました。市内の全小学校52校に1300台のタブレットPCを導入し、4つの研究指定校を中心に実践研究が始まったわけです。
また、併せてNEXTプロジェクトにも参加し、技術支援や研究アドバイザーの派遣などの支援も受けるようになりました。
こうした一連の事業によって、教員のICT活用指導力も向上し、和歌山市の児童生徒の情報活用能力の育成が図られ、「ICTを活用した児童の基礎学力の向上」という目標の実現が目指されるようになりました。
導入に際して、通常のパソコンではなく、タブレットPCを選んだのは、キーボード入力やマウスによるお絵かきでは、子どもたちにとってやはり違和感があるのです。タブレットPCなら、手書きを楽しむおもちゃ感覚で違和感なく扱えるわけです。
現在、52校のすべての小学校で、この機器による漢字学習が行われています。文字の筆順や形、はねなどが自動的にチェックされるので、教師は机間指導しながら、直接指導が必要な子どもに、よりかかわることができます。また、通常では算数や漢字の学習に用いられることが多いのですが、当市では美術・図工・社会の時間にも応用され、高い評価を受けています。
子どもたちは、こうした機器の利用で学ぶ楽しさがわかってきたようですし、さらに学習への興味や関心が高まってきたようです。機器の学習への効果がわかってきたので、今後は小学校の高学年には1人に1台をと考えています。また、中学校へも展開していけたらよいと思います。財政的には簡単なことではありませんが、今後は社会的にもICT活用能力が必要とされていくでしょうから、積極的に活用を図りたいと思います。
先生方の反応はいかがでしょうか。
活用が思っていた以上に大きな効果を生むとわかったようです。最初はどうかと思っていたのが、その便利さがわかってきたようです。校務の処理にも応用できるのではないだろうかという声も出てきました。
学校・家庭・地域の連携を強化
基本目標に掲げられている家庭教育・社会教育の創造についてお聞かせください。
さまざまな情報が錯綜している現代だからこそ、家庭における教育機能の充実が求められていると思います。
まず、家族のきずなを大切にして、基本的な生活習慣(早寝、早起き、規則正しい食事など)を身につけさせるために、家庭の教育力の充実を図る必要があります。特に、若い家庭では力を入れてほしいと思います。また、子どもたちが将来に対して夢や希望を持てるように、豊かな体験を通して心の教育の充実も図ってほしいものです。
大人はよく子どもに「夢を持て」と言いますが、肝心の大人が夢を持てるのだろうか、その夢を子どもに語れるのだろうかと思うこともあります。子どもは大人をよく見ていますから、大人が夢に向かっている姿勢を示すのも、子どもにとっては豊かな体験のチャンスであろうと思います。さらには、子育て広場など、子育て支援の取り組みも充実させる方向へ進めていく必要があります。
家庭の力と併せて、これからは地域の教育力も欠かせません。地域別、目的別の幼児・児童・生徒の健全育成のために教育諸団体の支援が必要です。保護者会の協力により、学校、家庭、地域のさらなる連携も大切なものです。教育文化施設の活用を促進させながら、子どもの多様な活動拠点として、小学校区子どもセンターの運営支援も図られる必要があるでしょう。放課後児童の健全育成という点では、若竹学級(学童保育)、あいあい教室(放課後子ども教室)などがその役目を担っています。
すべての子どもを受け入れる
学校評価については、どのように取り組まれているのでしょうか。
新しい学校評価では、評価結果に基づき、学校が運営改善に向けた取り組みを起こすことが、法律上強く求められています。いわゆる“PDCA”のA(アクション=改善・活用)がより重要となってきます。
第2のポイントとしては、共有という姿勢でしょうか。評価を活用して、いいものを広げていくという共有も確かにありますが、物事の持つ共通性と独自性の両方に目を向けて共有していくことも大切です。評価の低い部分こそ皆で分析して共有していくことが求められるでしょう。なぜ低いのか、なぜ悪いのかを共有することで問題点が見えてきます。その意味では、子どもの評価と同じことかもしれません。原則的にはすべての子どもを受け入れていくわけですから、やはり共通性、独自性を見据えていく姿勢が求められていると言えるでしょう。
すべての子どもを受け入れるという点ではかつての恩師を思い起こします。
中学3年生のときの担任でしたが、私が高校1年生の夏に、臨海学校で殉職されました。優しいだけでも怖いだけでもない、叱った後には必ずフォローのある、バランスの取れた先生でした。よく宿直室で遅くまで話を聞いてもらったりしたものです。生徒一人ひとりを受け入れてくれているという印象を子どもながらに持ちましたね。現在の私を支えている教師像でもあります。
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