教育コラム

第2回

子どもが自分で選ぶ能力を育てる

2009年12月22日公開

子どもが興味あることを見つけ、「やってみたい!」と思った時に、「こんなことをやってみたいんだけど」と親に素直に言えたり、相談できるような家庭の中の雰囲気作りをしておくことは、とても大切だと思っています。

「お母さんにこんなこと話したら、やめなさいと言われるだろう」とか「無理だから諦めなさいと言われるに違いない。だから相談しない、言えない」、そうなってしまうと、子どもたちはせっかく芽生えた「自分のやりたい思い」を心の中にしまい込んでしまいます。

多かれ少なかれ、親は自分が生きてきた経験から、「理想的な生き方」や「価値観」を子どもに押し付けてしまいがちです。人生経験が未熟な子どもたちに、「自分たちで判断しなさい」と任せてしまうことは勇気がいることです。「危なっかしくて見ていられない」と、自分の価値判断だけで、つい口出ししてしまうというのが実際のところでしょう。

たとえば、木登りをしようとする子どもに「ケガをしたらどうするの? 降りなさい」と、つかまえて途中で降ろしてしまうのと同じです。たとえそれが、“親心”からであっても、子ども自身の選択は無視されていることになります。
もう少し上のほうまで登れたかもしれない、もう少し広い世界が見られたかもしれないのに、その可能性を親が摘み取ってしまうのです。
その子は心の中で思うでしょう。「きっと僕は、もっと上のほうまで登ることはできないんだ」と。

「上のほうまで登ろう」「もう少し違う世界を見よう」としている子を、ゆとりを持って見守ることができれば、初めは無理かもしれないと思えることでも挑戦しようとする気持ちを育てることができるのだと思います。

我が家の息子たちは市街地から少し離れた山の上にある緑豊かな自然に恵まれた幼稚園で幼児期を過ごしました。
近所には躾に厳しく、礼儀作法を重んじるような名門大学の付属幼稚園などもありましたが、私は「自由」に子どもたちが子ども自身の生活をエンジョイできるような環境の整った所に通わせたいとの思いがありました。
もちろん幼児期に礼儀作法を教えることも大切ですが、自然の中で遊ぶことから何かを学んでくれるだろうと期待したのです。
その結果、二人の息子は実にのびのびと育ち、お行儀は決して良いとは言えませんが、とにかく身体を動かすことが大好きな子に成長しました。
「廊下では、引いてある一本の線の上を静かに歩きなさい」と教えるような幼稚園に通う子どもから見たら、息子たちはまさに「野育ち」の一言だったかもしれませんが……。

先ほど木登りのたとえを挙げましたが、実は次男は、私が幼稚園を訪れると「T君(次男)はまた裏山の木に登っていますよ~」と先生から言われるような子でした。実に危なっかしく、「落ちるんじゃないの~」というところまで登っていて、まるでおサルさんのようでした。
毎度のことなので、初めは見るたびにハラハラしていた私も、だんだんと「あら、またTちゃんおサルさんになってるのね~」と声を掛けられる“余裕の母”へと成り変っていました。
「すごいでしょ」と息子は得意になって私に手を振ったものです。

親として、ただ見守るというのはたいへん勇気のいることですが、子どもの「やってみたい」という気持ちをどんなときも大切にしながら子育てした結果、息子たちは、「無理かもしれない、ダメかもしれない、でもやってみよう」というポジティブな発想の持てる子に育ったと思います。

「できないかもしれないし、きっとお母さんにも反対される」と思ってしまう子どもは「自分で選ぶ」ことを自然と避けるようになります。
ニートになる原因の一つとしても挙げられるのが「自分で選ぶ能力の欠如」であると言われています。たとえば、レストランに入って「これが食べたい」と選ぶことができない子が意外なほど多いそうです。食べたいものがあっても、「これ!」と言えない。もしかすると何が食べたいのかすら自分でもわからないのかもしれません。

親には、親が為すべきこととして、子どもを導いて行く責任はありますが、その前にまずはその子の適性を見極めることが大切です。
幼児期なら木登りだったり、お絵かきだったり、小学生や中学生になれば、得意な科目ができたり、スポーツや音楽など選択肢も増えてきます。その時々に合わせ、それぞれの個性を生かしてあげるよう心掛けたいものです。
そうしてあげることで自然と「自分で選ぶ能力」も育っていくのではないでしょうか。

自分で選んだことなら、たとえ上手く行かなかったとしても「自分の責任」において解決して行こうとします。
人に選んでもらった道では、苦しくなったり、上手く行かない時に、自分で解決しようとせず、誰かに責任転嫁してしまうでしょう。「本当はやりたいことじゃなかったからだ……」と。

私が取材したトップランナーの方々が共通しておっしゃることのひとつに、「好きなことなら頑張れる」という言葉があります。
自分が本当に好きなことなら、たとえつらい時でも乗り越えて行けます。そして、自分で自分に責任を持つことができるようになるのだと思います。

何かを始めたら諦めずに継続して行くことはもちろん大切なことですが、もし途中で「ちょっと違うかもしれない」と思った時は、方向転換するのもありです。
大切なのは、始めるときもリセットするときも、常に真剣に考えて、自分自身で選び決めて行くことなのではないでしょうか。

今回は「子どもが自分で選ぶ能力を育てる」をテーマにお話しましたが、ここで高校教師でもありお母さんでもあるスタッフの瀧さんに登場いただきます。

◆今月の夢プロスタッフ
瀧 裕子 (夢さがしプロジェクトスタッフ。現在、都内私立女子高校非常勤講師)


はじめまして。瀧裕子です。
三人の子どもを育て、その間公立の中高で約十年間、その後女子高で五年間教育に携わってきました。
振り返ってみますと、私たちは日々「選ぶ」という作業をくり返して生活していることがわかります。それは、「今日はどの服を着よう」「卒業したらどんな道に進もう」まで、実に多くの「選ぶ」作業の積み重ねです。失敗してもすぐに修正のきく小さい「選択」から、修正に時間のかかる大きい「選択」まで、本当にさまざまです。

私たちは、親として、(教師として、)子どもが成人した時に自らの判断で何かを責任を持って「選ぶ」ことのできる大人になるように育てる責任があると思っています。

子どもが成人するまでは大人の経験から子どもの年齢にあったアドバイスをすることはとても大事なことです。その際、与える選択肢は多ければ多いほどよいと思います。
そのアドバイスは、時に誘導的な選択肢は与えても、最後の結論は自分で選択させるよう心掛けます。たとえそれが大人にとっては「本当にその選択でいいの?」と思われるものであっても……。まわり道となったとしても、自ら選んだことに責任を持つことの大切さを知るよい機会となることを学べるよう祈りつつ。

アドバイスをする際に大切なことは、「常に子どもをよく知る努力をする」ことではないでしょうか。上から正面から下から……いろいろな角度から常に子どもを観察し、その都度可能な限り適切なアドバイスをすることができれば、その結果子どもが親(教師)の思うような結論を出さなかったとしても、子ども自身が考え、自ら納得し迷いながらも選んだ道は尊重し見守ってあげる、その余裕があれば理想的です!

我が家の長男は、大学2年の秋に「約2年通ってみて、自分の進みたい道ではないと感じたので、別の大学で勉強し直したい」と言い出しました。
その半年ほど前から長男の暗く沈んだ様子が気になっていた私は「ついにきたか」という思いでした。
何回も家族会議を重ね、本人、親それぞれの希望、意志の確認、現在の社会情勢、等々を話し合い、結局本人の希望通り、大学を辞め、年末から受験勉強を始め、その春めでたく希望の大学へ再入学しました。
そして、いよいよ来春には本人の切望した仕事に就こうとしています。最初の大学の「選択」は失敗で、修正には長い時間がかかりましたが、本人はやりたいことが見つかり、今では生き生きとしています。
親としては子どもが輝いている姿を見るのが一番の喜びですよね。

最後に、教師として特に強く感じるのは、親や教師から「愛されている」と感じられる子どもは、多少「やんちゃ」でも人として外れることなく育っていくものだということです。
Love your children!

瀧さん、ありがとうございました。次回の夢プロスタッフは、幼児教育の先生で、お母さんでもある石井久美子さんにお話を聞きたいと思います。お楽しみに!

◆今月のトップランナーからのメッセージ
伊達公子さん 『夢さがし こうして私は自分と出会った』(菅原亜樹子著 芸文社)より


「高校に入学する時も自分で決めましたが、プロになることも自分で決めました。辛いことを乗り越えるためにはどれだけ「好き」という思いが強いかです」

高校卒業後プロになって間もなく、伊達さんは海外遠征で思うようなテニスができなくて落ち込んだとき、泣きながら日本にいるお母さんに電話することもありました。すると、お母さんは詳しく話さなくても伊達さんの思いをわかってくれたそうです。聞いてもらえるだけでもよかったのです。
子どもの思いを一番に、誰よりも理解し、いつもどこかで応援し見守っている、そんな母親でありたいですね。

菅原 亜樹子

菅原 亜樹子

〔スガワラ アキコ〕

エッセイスト。1959年、東京都生まれ。幼少期をニューヨークで過ごす。学習院大学文学部卒業後、富士銀行(現在、みずほ銀行)に入行、本店外国為替部に配属。退社後に結婚し、2児の母親である。「夢さがしプロジェクト」代表。日本キャリア開発協会会員。全国の学校や公共団体に招かれ、生徒・父母、および教育関係者を対象に講演活動を行っている。2006年、若者の夢さがしを応援する任意団体「夢さがしプロジェクト」を設立し、さまざまな企画を考案し、全国で実施している。学校でのキャリアカウンセリングも担当する。

著書に、『だから、一流。』(学研)、『夢さがしエトセトラ』(真船貴代子との共著/紀伊國屋書店)、『夢さがし こうして私は自分と出会った』(芸文社)がある。

◇ 夢さがしプロジェクト(http://yumesagashi.net/)

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